今いるのはとある街の宿屋。

 テント生活にもいい加減飽きてきた今日この頃。
 贅沢言っちゃいられねえのは分かってんだがさ。やっぱりタマにはベッドで寝たいと思う欲の心。
「宿屋泊まろうぜー、なあ」
 俺が思わずそう言ってしまうと、あいつは不思議そうな顔で俺を見つめてきた。
「何で。寝るとこならあるじゃんか」
 そう言ってバッツは自分が持ち運びしているテントを指差す。
「タマにはベッドで寝たいじゃんか、なあー?」
 そう言う俺を、やはりあいつは不思議そうに見つめてくる。
「何で。寝袋だって充分あったかいじゃん。なあ?」
 最後の言葉は俺以外の仲間に向けられた。
「それはそうだけど…。たまには宿屋でゆっくりするのも良いわね」
 矛先を向けられて、レナは少し戸惑いながらもそう返事をした。ナイス、レナ!やっぱりお前は俺の味方だ!
 賛同者が現れた事で俺の勢いは更に強まった。愛妹が味方なんだ。もう俺に恐いものなんかねえぜ!
「さーんせーーい!」
 可愛らしくピョコンと飛びながらクルルがそう割り込んだ。
 賛同者+1。3:1でこちらが優勢だ。
 そんな状況に大いに不服がある様で、バッツは顔をしかめる。
「別にテントで良いじゃん。金かかんねえし」
「今まですんげえ節約してきたじゃん、タマには宿行こうぜ」
 言葉の力は不思議なもんで。最初は何気なかった気持ちが、実際言葉にしてしまうと「もう宿に泊まらないと干からびちまう!」位の強い物に変わっていた。
「寝袋で充分だって。少なくとも新聞紙よりあったけえぜ」
 サラっとあいつが吐いた言葉に、思わず俺は黙り込んだ。他のメンツも同様だったみたいで、何か戸惑った空気が女性陣の中に漂った。
「新聞…」
「…バッツ、色々苦労して来たのね…」
 レナがしみじみとバッツの肩に手を置いた。
「な、なんだよお前ら!かわいそうな子を見るような目でオレを見るなよ!」
 一同から投げかけられた視線にあいつは躊躇ったあと、怒ったように怒鳴った。
「よし、やっぱ今日はそんなお前の為にも、奮発して宿屋だな!」
 この流れを逃してはならないと何かが囁いた。
 畳み掛けるようにそう言った俺の言葉に、レナとクルルは勿論賛成した。
 …まあバッツだけはやっぱり渋ってたけどな。
 こいつを陥落させるにはやはりあの手しかない。俺はチラリとクルルに目線をやった。
(頼んだぜ、クルル!「お兄ちゃん大作戦」だ!)
 クルルも俺の意図に気付いたみたいで片目をつぶってよこした。

「バッツ!」
 クルルがあいつの手を握る。
 突然の事にあいつは驚いたようにクルルを見つめる。
「たまにはのんびりしようよ、ね」
 首をちょこんと傾げながら無邪気にニコリと笑う。
 あいつはクルルのこうゆうとこに滅法弱い。
「しょうがねえなー」
 バッツはそう言いながらグリグリとクルルの頭を撫でる。
 その仕草は「可愛くてしょうがない」って言ってるみたいだった。
「えへへ、ありがとバッツ!」

 相変わらず完璧だぜ、クルル。
 まあ、クルルのあいつに対する態度は打算めいた気持ちだけじゃないんだろうけどな。
 少なくともあいつらには「お兄ちゃんと妹」的な思いがあるんだろうな、と思う。
 自分の近しい人に対する愛しさを今の俺は重々知っている。
 だからその思いは何となく分かるような気がした。

「バッツー、早くー」
 クルルにそう急かされてあいつは俺達を置いて歩き出した。
 クルルとバッツが手を繋いで連れ立って行く様子が目に入る。正確にはクルルがあいつの手を引っ張って、なんだけど。

 反対してたくせに。
 ふとそう思って何か釈然としない。

「私たちも行きましょ、姉さん」
 そう言ってレナが俺に微笑む。
 ああ、可愛いなあと思ってとっさにレナに手を差し出した。
 なあに?と言うように不思議そうに俺の顔を見つめてくる妹。
 やっぱり可愛いなあと思って俺の顔が思わず緩む。
「あいつらみたいに」
 レナが恥ずかしそうに笑う。その笑顔は苦笑に近かったけど、彼女は俺の手の平に自分のそれを乗せて握り締めてくれた。
 寂しかった手の平に熱が乗る。
「こう?」
 ここまで来て俺は我に返った。
 ボウっと抜けてた魂が自分の身体に帰って来たみたいな感じ。
 そんでなんか無性に恥ずかしくなった。

 手を握ってくれた事が嬉しかった。

 子供みたいじゃん、俺。
 俺の方が年上なのに、なんかレナの方が姉貴みたいだ。

 握った手の平は、お姫様なのに長旅で荒れてた。
 手はひんやりしてるのに何か物凄い温度を感じた、気がした。
 色々な思いが彼女へ向かう。それは混ざってる感じで、どういう思いなのかよく分からなかった。
 張りつめて生きてきたのに、今こんなに側でこんな無防備に俺に寄り添ってくれる人がいる。
 昔、泣きたかった時に欲しかった温もりに似ていた。
 何か顔が熱くなって、恥ずかしいからなのか何なのかよく分かんなくなる。
 
「行きましょ」
 そう言ってレナがニコリと笑う。
 俺の手を引いて歩き出す。
 顔は熱いままだったけど、手に感じる感触が懐かしいとどこかで思った。




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見切り発車で書いてたブツです。(これ以降は書けてな…)
タイトルがイヤンな感じだと思うんですが、聞いてくれ!これには深い訳が!!
「少女漫画系」で「天然タラシのバッツ」をテーマ書こうと思いあのタイトルになったという。
タラシになるどころか、バツファの形跡があるのかも怪しいものに。これからどうにかなるのかどうにもならないのか(サイトの傾向から行くと、どうにもならなそうだな(苦笑))
(05.11.09)


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