悪夢のような場面に出くわして、段々気が遠くなりそうになりながらも何とかバッツは堪えていた。
 ああ、オレどうなるんだろう、とぼんやりと思う。
「元気そうで良かった。安心したよ」
 そう言ってランスロットは微笑んだ。
 かつて己の顔を潰した男へのものとは思えない言葉に、バッツは咳き込みそうになった。
 手を握り締めるランスロットからは、怒っている様子は全く感じられない。
 
 怒ってないのか?
 そう思って思わずランスロットをまじまじと見たが、相変わらずニコニコと笑ったままだった。
 本当に再会を喜んでいるのだ、と分かってバッツは激しく安堵した。どうやら「お咎めを受ける」という最悪の事態は回避出来そうだ、とほっと息をつく。
 脱力しそうになるバッツには気付かない様子で、ランスロットは手を離した。
 そして今度はファリスの方へ手を差し出す。
「姫も、お元気そうで何より」
 ファリスはそれを力強くしっかりと握り締める。そしてありったけの思いを込めるかのように、満面の笑みを浮かべた。
「お幸せに」
 ファリスにそう言われてランスロットは照れたように、笑った。
 そうして彼女から手を離すと、城の方へと歩き出す。

「あれほどの見事な剣舞、再度演じて頂きたいが、あいにく先を急がれるとの事です。皆様方もどうか快くお見送り差し上げて下さい」
 大きい声で周囲にそう言って歩き去るランスロットを後姿を、呆然としながらバッツは見た。
 どうやらこちらが出て行きやすいように、と計らってくれているらしい。
 色々と申し訳ないような気がして、バッツは深く頭を下げる。
 そして同時に何かに負けたような気がして、腹の底に何かが沸いたような気がした。
 悔しさに、似ているのだろう。一言それだけでは括れない何かが塊になって、沸いた。
 歯を噛み締めると、そのまま乱暴にファリスの手首を掴む。
「行くぞ」
 低い声でそれだけ言う。横目に、ファリスが驚いているのが見えた。
 驚いた顔のまま、ファリスが頷く。

 人の波を縫うように2人は駆け出した。
 城内の人らが「我が国にも、いらしてね」と叫んでいるのや、城下の人らに「すげえな、あんたら」と言われて群がられ、もみくちゃにされるのを何とかやり過ごす。
 やっとの思いで人ごみから抜け出す。
 走る速度はそのままに、宿の方へ向かう。

 宿に預けておいた相棒のチョコボを強引に連れ出すと、そのまま街の外へと駆け出した。





 だだっ広い野原の中に、がっくりとうな垂れて歩く1人の男と、それを気にした様子も無く連れ立つチョコボに乗っている女がいた。
 時刻は当に夜中を回っていて、「いい加減休もうぜ」と女が不服そうに言う。
 ボコに乗ってんだからお前はオレより疲れてない筈だろうが、という思いは口にしなかった。
 というかそんな気力はもう欠片も残っていなかった。
「………また、二度と行けない(というより行きたくない)国が増えた…」
 溜息をついて肩を落とす彼を「辛気臭え事言ってんじゃねえよ」と女が切り捨てた。
 事の発端となった元凶にそういわれても、もう怒りすら沸かなかった。
 今はもう、何も考えずに休むに限る、と結論付けた。

 気力限界、といった様子でバッツはその場に寝転んだ。
 ガサガサという草の感触も気にならなかった。
 色んなことがありすぎて凄く疲れた、と思いながら息を吐く。
 連れ立つ女もチョコボから降りて、彼の隣へ腰を降ろした。
「バッツ」
 ファリスを横目ちらりと見ながら、その続きを待ったが彼女はそのまま何も言わなかった。
 互いに無言のまま時間が経つ。


「色々、サンキュ」
 ひとしきり迷った様子の後、ファリスはそれだけ言った。

 そうだ、いつだって、こうなんだ。
 オレはコイツにかなわないんだ。
 隣で笑ってくれる、いつだってそれだけで嬉しくなっちまうんだ。
 そう思って彼は小さく笑った。
「うん」
 バッツは指を伸ばす。彼女の方へ。
 届いた指の先で、彼女の手を握り締めた。
 指先に、目の前の人が手を握り返してくる感触を感じた。
 こいつもきっと笑ってる筈だ。そう思って、指先に力を込めた。



 これからも
 いつもふたり。




* * * * * * * * *

 13・14話は二つでセットって感じもあり、一緒にアプりました。
 これにて完結です。
 まとまりが無い部分多々あり、読みづらかった部分も多かったと思います。
 ですが懲りずにこれ関連の話は今後も書くかもしれません。てーか書きたいし(笑)
 「We are happy?」にここまでお付き合い下さった方、本当にどうもありがとうございました。
(2005.05.15)

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以下後書き的な物を。
別段本編に影響した事は書いてないと思います(笑)ので読まなくても支障ありません。
「読んでやるよ」という方はドラッグ反転にてどぞ。

【後書きのような物】
 「We are〜」当初の予定より大幅に長くなってしまいました。
 もっとサクっと終われれば良かったんですが。

 勢いで書いた「Are you〜」とは対比して、これは色々とかなり四苦八苦しました。
 バッツ達とレナやクルルをどうやって連絡取り合わせようかとね。いっその事バッツに携帯電話持たせようかと思ったり(笑)

 「Are you〜」の方ではレナの事を全然書けなかったので、今回はレナに視点をあてて書きたかった。
 レナとファリスが(ウチの)バツファよりもよっぽどラブラブになってしまい、「どうしてこれをバッツとファリスで出来ないんだろう」とかも思ったり。

 テーマは「レナが自分で切り開いて突き進む」という物でした。テーマクリアは出来ていない気が凄くしますが、書きたかった所を色々書けて楽しかったです。出来はともかくな(苦笑)
 設定が色々ゴリ押しなので粗が目立ちまくりだと(ほんとにな)思いますが、そこんとこはノーコメントでおひとつ。

 今回入れたかったけれど結局入れれなかった話がチラチラあります。
 「Are you〜」逃亡の前のレナとファリスの話。そして今回の手紙やりとりに関するクルルとファリスの話。
 結局入れれなかった話の一つに「舞台になった国の王がランスロットを婿養子にする条件に出した一つが『この国はこれからもタイクーンと円満に付き合っていく。なので結婚した場合はタイクーンを式に招待する』」という物がありました。ランスロットがタイクーンで起こした(というか巻き込まれた)事が事だったので、自分の国がタイクーンと険悪になってしまうのではないかと国王が危惧した…というのを入れるつもりでした。
 それから舞台となった国は、以前バッツらが来たことある国を想定。光の四戦士たちが旅していた頃に立ち寄ったという設定で勝手に捏造。もち、地図(Yボタンの世界地図な(笑))に載ってねえだろうな。
 以前泊まった宿を待ち合わせ場所にファリスは指定しました。これも入れれなかったひとつ。

 「Are you〜」の後書きに書いてた事もありましたが、ランスロットの名前は某漫画の登場人物です。「王子っぽい名前〜!!」と思ったあげく結局これにしました。良いのかそれで。

 入れられなかった話は、また別に書けたらいいなと思ってます。
 ここまでお付き合い下さりまして、本当にありがとうございました。
 見てくださる方がいるのがとても嬉しいです。ありがとうございます。