窓から細くもれる薄明かりすら許さないように静まりかえる。
 夜に、埋もれる。
 隣で呼吸をする気配に、眠っているのか確認をする勇気すらどうしてか沸きおこらなかった。
 互いに守るようにかけられた上掛けが上下する。二人分の体積。
 
 お互いに背を向けるように寝ている。
 何となく寝苦しくて、右肩を下に向いていた姿勢からあお向けに寝返りを打つ。
 ちらりと相手の方を横目で見たが、背を向けて寝ているので顔が見えない。
 補うように、髪が枕もとに散らばる。
 無造作に、無機質に散らばって、暗がりに埋もれて綺麗だと思う。
 その流れの中にそっと指を入れて、梳いた。部屋の温度を反射して髪の流れは冷たかった。

「・・・人の髪で遊ぶな」
 背を向けたまま、不機嫌そうな声がした。
 寝ていないのかなという予想が当たったのに、先ほどそれを確かめることすら出来なかったのが馬鹿らしくなっておかしくなった。
 そのまま少し笑うと喉の奥で、声に出ない程度に笑いの気配を含んだ息が出た。
 そのまま、指で髪を梳き続ける。

 うざったそうに頬にかかる自分の髪を払いながら、相手も寝返りを打った。
 軽く見咎めるような目線と目が合った。 
 多分色々言いたいことがあったんだろうけど、結局相手は目を逸らさないまま何も言わなかった。


「長いの、好きなの?」
 だったらお前が長くしろよと、うつつに言いながらそれでも相手は、指で梳かれるのをとめなかった。
 それがおかしくてまた喉の奥で笑った。
 お前のじゃなきゃ意味ないじゃんと言って、また笑った。
 どっちでも良いけど長い方が気に入ってるかもと言ったら相手は少し黙ってから、ご勝手にと言ってまた背を向けた。

 なあ何でそんなに機嫌悪いのと聞いたら、お前は上機嫌そうでなによりだなというつっけんどんな返答しか返って来ない。

 隣にいる人には春のような力が埋もれている。
 少し前から暖めている。
 戸惑いと戸惑いと嬉しさと。
 嬉しさと嬉しさと戸惑いと。
 お互いにお互いの物を抱えながら、一つの事を考えている。

 だって楽しみじゃんーと言ったら、相手は不機嫌そうにため息をついた。それが複雑な戸惑いを隠す鎧なのだと最近分かるようになった。
「お前にだって原因はあるんだから少しは悩め」
 だって悩むより楽しみじゃんーと言ったらもう相手から返事はなかった。
 隣にいる人は春のような力を暖めたまま、こちらに身を向けなおして少し笑う。
 彼女が目を閉じたら、そこからひとすじ涙がこぼれた。
 触れたら冷たくて、新しく暖かい涙がまたこぼれた。

 指先で確かめて、自分も目を閉じた。




* * * * * * * * * *


玉響と繋がってる…つもり。



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