!注意して下さい!

 「お花畑でつかまえて1・2話目」から続いていますが、本来の3話目のまた別バージョン話になります。
 グロでは無いですが、救いがない暗い話だと思います。
 「明るい話が良い!」「ラブラブでないバツファは駄目じゃ!」「バッツが(良くない意味で)壊れてるなんて駄目なんだぜ!」な方、これはそういった話とは全く異なります。読まない事をお薦めします。



 「むしろカモン!」な方、温かったらすいません。でも私が書くダークってたかが知れてると思(ゲフ)
 オッケイな方はスクロールにてどぞ。
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時間てのは 変わらない。
速いも遅いもないんだろう。

だからそう感じるのは結局 心なんだ。

だから 変わらない。

1年だって 10年だって。






 彼には密かに想いを寄せる女性がいた。
 そしてその当人は、そのことに長いこと気付かないでいた。

 いくら時を積んでも自分達は「仲間」にしか成り得ないのだろうと、彼は思っていた。
 だから彼女にとっての友であろうと、彼は随分な時間 錯誤していた。それによって生まれる軋みは、側にいる事の代償なのだとそう思っていた。
 けれど彼なりのその努力は、彼女を満足させなかった。彼女の望む形で共に居続けようとしたつもりが、それは追い詰めている事になっていたと彼は知った。


「何か言いたい事があるんだろう」
 彼女の余裕の無い状態に、彼はそれを思い知った。自分に出来る事をしたつもりだったのに、そうではなかった。
 その事実は彼女だけでなく、彼をも砕いた。
 彼がそれまで抱いてきた物がことごとく、割れた。


 無限の、終わりの無い所いたような――そんな日々が脳裏をよぎって、そして真っ白になった。





 最初に目にしたのは母の死だった。
 台所で彼女は突然倒れて動かなくなった。
 母との生活は彼にとって光だった。
 そして在った物を無くして初めて、彼はそれが光だったのだと気付いた。
 代わる物など無いと、気付いた。

 それから父との生活が彼の全てに変わった。
 そして母を失った時の年齢以上の年月が過ぎ、彼の全ては親だけで無い もっと雑多な物で溢れるようになった。

「この時間が一番綺麗ねえ」
 そう言って、橙と藍と灰が混ざった色の空を見上げて母は笑っていた。
 だから、夕暮れの色が今も一番美しいと思っていた。
「もっとしっかり構えろ」
 そう言って、対等の者として父は彼に剣を教えた。
 だから、今も剣の腕を磨き続けていた。


 一人旅を始めたばかりの頃、財布を掏られて全ての路銀を失った。
 そして雨露をしのげない夜が存在する事を知った。


 今まで積んできた時間全てで彼は埋まっていた。
 それまでの喜び怒り悲しみ楽しさ、全ての経験が彼だった。
 そして今の彼が、最も想いを割いていたのは彼女だった。


 例えるなら。
 正方形の白に覆われた、狭い空間の中に彼は囚われていた。名前を付けるなら、それは彼女の名前の部屋だった。
 出る事も出来ず出ようとも思わず、長い事彼はその中にじっと座っていた。

 時間をかけて出来た綻びを一気に彼女は切り裂き、囚われていた彼を解き放った。


 その時自分がどうしたかったのか、彼は理解したのだ。

 己で捕まえて、閉じ込めれば良いんだと。








 旅の全てが終わり皆が在るべき場所へ戻った。
 彼は一人旅に戻った。


 彼女の在るべき場所を決めれるのは己だけだと思って、彼は静かに笑う。

 「狂気じみている」――以前の彼とは違う、昔の彼を知るものが見たらそう感じたであろう、そんな笑い方だった。

 愛している。そう思う事にもう躊躇いは無い。
 彼女を憎いと思う、理性の部分は恐らくあの日に一緒に砕け散った。
 彼女が彼を解き放った日に。

 彼は歩き出した。
 迎えに行くのだ。彼女を、決めた場所に存在させる為に。




「久しぶりだな」
 そうして彼の名を呼んで、彼女は嬉しそうに笑った。

 彼女の名前を呼びながら、彼は彼女の頬に触れた。
 柔らかく笑う彼の目はまるで愛しい者を見つめているようで、初めて向けられるその表情に彼女は硬直した。彼女の認識の中で、それは起こり得ない事だった。
「……ど、どうしたんだよ」
 震える声で彼女はそう問いかけた。
 それに何も答えず彼は彼女を抱きしめた。そしてゆっくりと彼女の髪を指で梳く。
 唐突なその出来事に彼女は頭がついて行かず、身動き出来ないままだった。
「…行こうか」
 彼女の髪を指で梳いたまま、彼はそう囁いた。

 彼の言葉の意味が分からなかった。
 そして聞き返そうと思った瞬間目の前が真っ暗になり、彼女は意識を失った。


 彼女が目を開けると、そこは見慣れない部屋だった。
「………どこだ、ここ」
 彼女がそう呟くと、近くで誰かが笑う気配がした。
 ぼんやりとした意識が一気に覚醒した。
 慌てて身体を起こすと、頭が鈍く痛んだ。気配の方へ彼女が目を向けると、予想通り彼がそこにいた。
 何が起こったのかどうしてここにいるのか、全ての事が彼女には分からなかった。
「どういう事なんだ」
 混乱したまま彼に問いかけた。返事は無かった。
「ここは、どこだ」
 やはり彼の返事は無かった。
「分かるように説明しろよ」
 無言のままの彼に苛立ちながら言葉をぶつけた。

 彼女は彼を睨み付けた。しかし彼は全くお構い無しの様子で僅かに笑った。
 その不可解な事態と彼の様子は、彼女を更に苛付かせ不安にさせた。
 彼女の知っている彼ではない、それだけは分かった。
 限界でパンパンになった気持のまま、彼女は彼から目を逸らした。彼の姿を見るだけでぐしゃぐしゃと不愉快な思いが膨れ上がって辛かった。

 どの位沈黙が続いたのか分からなかった。
 多分、短い時間では無かった。

 永遠とも思える動かない時間の後、彼は呼んだ。彼女の名前を。
 弾かれたように彼女は彼へ顔を向けた。
「…何で、説明して欲しいんだ?」
 彼のその言葉は彼女の問を否定する物で―そう感じて彼女の怒りは膨れ上がった。
「ふざけんなよ!」
「ふざけてない」
 彼女とは対象的に彼は静かにそう答えた。そして彼女の側に歩み寄った。
「…説明なんて、必要ないだろ?」
 そう言って彼は彼女の頬に指を這わせた。愛しげに見つめながら。
 今度こそ彼女は完全に混乱した。彼の言っている事が全く理解出来なかった。
 言葉が通じないというのではなく心が通じない、そんな次元だった。

 彼が彼女の名を呼ぶ。
 頬に這わせた指が、今度は髪を梳く。

「分かったんだよ」
 髪を梳く彼の指は、どこか壊れた現実の様だった。
「俺は心なんか要らない。お前自身がいればそれで良い」
 そう言って、彼は優しく笑った。


「俺は、お前が好きだったよ」
 そう言って彼は、笑った。




* * * * * * * * * *


 本来書こうと思ってた3話目と別物の話になっちまいましたよ。1・2話から続いてる歪みバージョンだと思ってください。本来の3話はこの次アプします。
 B氏とF氏の名前を出さないようにして書いたんですが分かりにくいかもですな。すいません。
 つか花畑はコメディちっくにしようと思ってたのにどうしたんじゃ自分。
 バッツが段々壊れていってます。これ以上書くと更に救いが無い事になりそうな(ゲフ)
 バッツが出した答えが冒頭の部分になってたりします。
 
(08.03.21)


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