昔のはなし。
 そして いまも続く。

 おおきな 大陸のほんの 片隅で。


 自分の覚えている 最初だったのか最後だったのか
 今はよく覚えていない。

 わたしがとても影響を及ぼした世界だった。
 そして、わたしを知らなければ それは本当に意味をもたなかったのだ。

 彼女は女王の冠をいだいてから暫くたち その意味を失った。
 そして それはそのまま世界に左右した。

 それでも わたしを呼びながら
 わたしとは違う方へ手をのばし続けた。
 指を重ねて それはわたししか知らなくて
 幸せで伝わらなくて 今思えば「もどかしい」というのが近い気がする。

 水が弾けてから 水が溜まることはなかった。
 穴が開いているように。

 いまも続く 昔のはなし。




 目を閉じて 一つの世界がみえた。

 小さな男の子が 少しぼんやりと中を見ながらベッドの上で体を起こしていた。
 二三度まばたきをしてから、周囲を見渡して最後に自分の少し上を見上げていた。それから自分の手のひらを見つめて、またまばたきをした。
 その時、部屋の扉がもの凄い勢いで開いて、同じくらいの勢いで一人の女の人が入ってきた。
 少し止まったように、呆けたように男の子を見つめると、次に顔を歪ませながら彼を抱きしめた。
 同じぐらいの勢いで、強く抱きしめた。
 開けられたままの扉の前には、もう一人の人が立っていた。入るのをためらう様な、入ってしまったら壊れてしまうと思っているような、そんな顔をしていた。
 それでもその人も部屋へ入って、扉を閉めた。手が少し震えていた。自分を落ち着かせるように扉の取っ手を強く握り締めていた。

 小さな男の子は抱きしめられたまま少し笑った。
 「おかあさん」と消えるような声で言った後、扉の人へ目を向けて「おはよう」と言った。

 扉の前で立っていた人も同じ言葉を返した。返したら、すこし涙が落ちた。
 そうして二人の所に歩み寄って、今度は三人で抱き合った。
 くちびるをかみしめてると、ふと、泣いたときの味がした。



 いまも続く 昔のはなし。

 いまだけは むかしではない
 このせかいの 話。



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