「ばれんたいん」っていうのがあるらしい。
 俺らの世界じゃ無かった風習なんだけどな。
 元々クルルやガラフのいた世界でのイベント事ってヤツらしい。

 クリスタルや世界が元の姿に戻って、そんでこっちの方に広まったんだ。

 世界はもう、一つになってんだから「あっち」や「こっち」って言うのは正しくないと思うんだけどさ。
 あるべき姿に戻ったっていう事に、まだ俺は慣れていないのかもしれない。
 側にいた人らが同じ大地にいるって思う時、何ともいえずくすぐったい温かさがよぎる。そう思える事が、俺の力になっている。多分。

 元々俺には馴染みのなかったそのイベント事は、目新しさもあってか物凄い速度で広まっていった。
 決められたその日に意中の相手に菓子を贈る。その行為は即ち告白ってヤツを意味するらしい。
 普段勇気を出せないヤツがその日に意を決してっていうきっかけになれるって事であっというまに受け入れられたようだった。
 クルルに聞いた話だと、向こうでは女性が男性にってのが一般的らしくてな。
 そのせいかやっぱ女性から男性にってのが浸透してるみたいだった。

 まあ勿論俺だってコイツくれねえかなって思う相手はいるけどさ。
 そいつは大真面目な顔で「むしろお前がよこす立場だろう」って言い切りやがった。一年に一度くらい、なんつかサービス精神働かせろよって思わなくも無かったがな。
 何だかんだ言って結局俺はあいつに甘いんだ。理由なんて嫌になるくらい分かってるけど、形にするのは何だか面白くない。そういやちゃんと言葉にした事もないかもしれない。でももう今更感は拭えなかったりするんだよな。

 嫌がらせ半分面白がり半分ってとこなんだろうか。あいつは「あと何日だな」って言ってくる。ムカつくから無視すっと途端に大変なことになる。
 あいつの抗議は拳だったり蹴りだったり短剣だったりするから俺も命がけだ。
 埒があかない展開に結局折れるのは俺なんだけど、それがアイツにはやっぱ面白くないらしくて結局またケンカみたいになるんだよな。


 自分でも子供じみてるとは思ったけどさ、受けて立ってやるって思っちまって。
 思い切って俺はそのイベント向けの物が置いてある店に行ってみた。
 迫ってきている日数を反映してか、店内はたくさんの客で賑わってた。勿論女の人ばっかりな。
 可愛らしく綺麗に陳列されてる様々な品々を前に俺は物凄く肩身が狭かった。
 たくさんの女性に紛れて男一人ってすげえ浮きまくりなんだもんな。
 だって遠巻きに俺に注目してる気配がするのは絶対気のせいじゃねえだろ。
 いたたまれなくなって俺はすぐに店を出ちまった。

 何となく溜息が出る。
 何しに行ったんだろ、俺。

「明日だな」
 にっこり笑って言ってくるアイツから何となく迫力のような物を感じたのは気のせいだと思いたい。俺は曖昧に笑いながら言葉を濁した。






 差し出された小さな箱。
 綺麗に包装されたそれの意味が俺には分からなかった。
 目の前に立つのはまだあどけない女の子で、どこかで見た事のある顔だと思った。
 誰だかは思い出せないまま、俺はぼんやりとそれを受け取っていた。
「頑張って作ったの」
 そう言って彼女はにこりと笑った。
 そう笑う瞳の色に、答えが見つかりそうな気がした。
 掴めない物を追おうとするもどかしさが溢れた。思い出せなくてごめん、と何故だか思う。
 精一杯の言葉すら俺には見つからなかった。






 ここはどこなんだろうと思って俺は目を開けた。
 今まで起きていたのに目を開けた違和感に戸惑う。

 その後に夢だったのだと気付いた。
 ありがとうとだけでも伝えれば良かったんだと、今更ながらに思う。
 もう出会えないだろうなと思ったら何でだか泣きそうになった。ほんと、どうしたんだよ俺。


 起き上がってもぼうっとしたまま身動きしない俺に、どうしたんだとアイツが声をかけてきた。
 からっぽの頭のままあいつの顔を見上げる。
 翠の色が俺を見つめる。
 その色を見た時、ああそうかと思った。
 
 似ていたんだ。
 ようやく見つけた、そう思って俺はひどく力が抜けた。
 何だかおかしくなってきて、あいつの顔を見ながら俺は笑っちまった。
 笑ってるのに泣きそうだ。
 見つけた事が嬉しくて、俺は笑った。
 笑いすぎて涙目になったんだと、そう思ってくれていると良いと思った。













 それから何年経っても、俺とあいつは相変わらずだった。
 俺が椅子に座って書き物をしていると、俺の肩を叩く感触がした。
 それに振り返ると、目の前に小さな箱を差し出された。
「頑張って作ったの」
 そう言って彼女はにこりと笑った。
「ありがとな」
 俺はそう言って、彼女を目一杯抱きしめる。
 はるか昔に置き忘れてきたパズルがようやく形になった気がした。
 だから俺はもう会えないことがあんなに悲しかったんだ。
「お兄ちゃんにも渡しに行くんだから、離してよー!」
 仕方ないなと思いながら俺は抱きしめていた腕を緩める。
「なんだよ、俺にだけじゃねえのか」
 俺から少し離れて彼女は笑う。薄い茶の髪と翠の瞳が揺れる。
「みんなに平等だからお父さんにだけじゃないの!」
 そう言って彼女は元気に部屋から走り去った。


 彼女の薄茶の髪が肩くらいの長さで揺れるのを見る度に、あいつの妹を彷彿とさせる。あいつが意図的に妹と同じ髪型にさせているのにも原因はあると思う。

「…俺の事「親ばかだ」って言うけど」
 あいつだって人の事は言えないと思う。



 手の中の箱を眺めて、俺は繋がった時間を思い返した。




* * * * * * * * * *

 バッツ視点でバレンタイン文のつもりでアプしました。ってーかガッツリ間に合ってないし自分!
 甘くするつもりだったのにやっぱり甘くならなかったです。(でも当社比にすると甘めな方かと(小声))
 「バレンタインの風習は第二世界のみ→世界融合で世界中に広まった」って勝手設定しちまったyo!
 そしてこのバッツとファリスには子供ーズがいます。すいませ…
 娘の方はちょっとレナ似です。髪形がばっちりレナだからです。ファリスの趣味です。やはりシスコン(笑)
(06.02.16)


   back