一行は場所を移動した。
 立場上クルルの素性がばれるとまずいのもあるし、それに折角の再会に立ち話も何だと思ったからだ。
 余り人目につくところは避けたい…と考えた末、バッツらが取っている宿の部屋へ向かう事になった。

 部屋中に入るなりクルルが室内をグルリと見渡す。
 そしてバッツとファリスをじっと見つめた。

「何だよ」
 彼女の視線に何だか含みを感じて、ファリスは居心地が悪くなる。
 可憐にニッコリと笑うクルルに、その含みが強調されているような気さえした。
「…だから、何だよ」
「うん、一緒の部屋なんだなぁーと思って」
 二人で一つの、とその顔には書いてあった。
「い、いや、相部屋の方が安いし」
 何となくうろたえてバッツが言葉を発した。
 何も考えず咄嗟にそう言ってしまったが、考え直すとあからさまに言い訳じみているような気がした。
「別に、気にすることじゃないでしょ、バッツ」
 無邪気に笑いながら己の背中をクルルに強かに叩かれ、そして己の足をファリスに嫌というほど踏みつけられて、彼は自分が横槍を入れたのを心底後悔した。

 クルルは何事も無かったかのように、一脚だけ備え付けられている椅子に腰を下ろす。
 一方不機嫌な様子でファリスはベッドに腰を下ろした。見なくても彼女から凶器のような目線を向けられている事がバッツには分かった。
 空気が痛い。

 今すぐにここから去りたいと心底思いつつ、仕方なく自分も空いているもう一方のベッドに腰を下ろす。

「それにしても、ホント大胆だよねえ、バッツとファリス」
 クルルが何を指してそう言っているのかは嫌でも察しが付く。
 バッツの中では忘れたい思い出ベスト3に入っている出来事だ。
 そんな彼の事など知るよしも無くクルルは感心している様子だった。
「…もうその事はそっとしておいてくれ」
「そうは行かないよ。それ抜きじゃ話出来ないもん」
「なんで早くからここにいんだ、クルル?」
 その内容にかつての騒動の元凶だった女、がまた何か企んでいるのかとバッツは怪訝な表情をした。
 そろそろとファリスの方を伺うように見ると、当の本人はまったく気にした様子もなく足を組んでいる。
 少しくらい反省しろと彼は声を大にして言いたかったが、また一騒動起きるだけなのも容易に想像できたので彼はグッと堪えた。
「元々ね、バルはこの国との交流が盛んだったの。それで今回先がけてお披露目をしたいからって招待されたんだ」
「そうだったんか。ここにはいつ来たんだ?」
「着いたのは昨日だよ。ファリス達が予定の日より2日も早く着いてるなんて思わなかった。早く会えたから嬉しいよ」
 そう言って彼女はニコリと笑った。
 その無邪気さに思わずバッツは和みそうになったが、こいつらの策に嵌っては駄目だと我に返る。
 彼女らが何を話しているのか相変わらず彼にはサッパリだ。
 自分にも分かるように話す配慮はこの二人には無いらしい。
「あのさ、盛り上がってるとこ悪いんだけど、何のことだか俺サッパリなんだけど」
 クルルはそう言えばそうだったという表情をした。
「バッツ、全然ファリスから聞いて…無いんだよね」
「ああ、全くなんにも。サッパリ」
 憮然として言い放たれた様子にクルルは少し肩を落とした。そしてファリスを見つめる。
「何でなにも説明してなかったの、ファリス」
「…だから、言ったらつまんねえかなって…悪かったよ」
「うーん。今更仕方ないけどね…」
「それにさ」
 ファリスは真顔のまま、バッツを指先だけで指した。
「言ったらコイツ絶対反対すんだろ」
「あー…、うん、そうだ、ね」
 微妙な表情でクルルが相槌を打った。
 また自分抜きで話が進みつつあるのがバッツには気に食わなかった。
 そして今の状況が連れ立っている女の計画的な物だったらしいという事が更に気に食わなかった。

「クルル、分かるように説明してくれ」
 当てには出来ないと思ってファリスには目もくれなかった。
「え、うん」
 クルルは曖昧な表情で笑った。



(2005.01.26)


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