天気は良いし風は穏やかだ。
 見渡す世界は広いし今は拒まずに歓迎に手を広げるようにすら見える。
 どこをどうみても清々しくなる景色の中、二人の人間が歩いていた。
 正確には疲れたようにがっくり肩を落とした男と対照的に上機嫌で揚々と歩いている女とのん気に彼らの隣を付いていく黄色い大型鳥。
 男は機嫌良く隣を歩く女を横目で見ながら心の中で何度落としたか知れないため息をつく。
 ああ、厄日だ!
 その度に、そう深く思えて仕方がない。
 なぜこんな事になったのか・・・それを説明するには状況を少しさかのぼる必要がある。




 世界を回る。
 父親の遺言どおり彼は未だにそうしている。
 何年経っても回りつくした気はしないし、どれだけの場所に行っても世界は未だに不可解で綺麗だ。
 漠然としかし確信をもってそれに己は生涯を費やすのだろうと決めている。
 不安は薄い。しかし旅愁は少し強まっていく気がした。

 そうして彼は相棒のチョコボと夜闇の中たき火を囲んで思案をめぐらせていた。
 当初、彼はひとりで世界を回るつもりだった。
 だが彼の相棒はそれについてくる事を望んだ。
 勿論ためらいはあった。ひとりの自分と違い相棒には家族がいたのだから。
 それでも相棒は自分との旅について来る事を望んだ。
 だからその意志を素直に尊重しようと、決めた。
 だから相棒がいずれ家族の元へ帰る時も勿論自分は笑顔で送ってやるつもりだった。
 それまでは一緒に旅をしようと誓い合った。

 彼らが今いるのは風の神殿の守人の城タイクーンに比較的近い所だった。
 仲間達の事を思い出した時に寂しさではない光が胸を焼いた。
 素直に訪れて良いのかと言う迷いはあったが、それでも堂々と行って追い返されないだけの人望とコネをその場所に彼は持っている。
 ただ一瞬、会いたいのだと思う。
「よーし、ボコ、次の目的地はタイクーンだ」
 そう言って隣に座る相棒の頭をなでる。
「お前の家族にも久々に会えるぜー」
 素直に嬉しそうに身を寄せてくるチョコボに彼も嬉しそうに笑いかけた。
 そうして、会いに行こうと思った。





 その日、レナは自分の部屋であいた時間を休憩にあてている所だった。
 事実上彼女はタイクーンの代表的な立場にいるので日常の忙しさは言いつくせない程だ。
 天気が良いのに窓を閉め切るのが少しもったいない気がして窓を開けようかと腰を浮かしかけた時、扉を遠慮気味に叩く音がした。
 そうして扉の前で述べられた名前で大臣が尋ねてきたのだと分かる。
「どうぞ」
 レナがそう言うと、失礼致しますと言った後に大臣が部屋へ入ってきた。
「どうかした?」
「客人がいらしております」
 恭しく大臣がそう言うと彼女は少し怪訝な顔をした。今日は誰かとの面会の予定があったろうかと考えているのが顔に出たのだろう。
 大臣は訪問者の名前を告げる。
 見る間にレナの顔が綻んで花のように笑う。
「いつも急な訪問なんだから。姉さんには知らせてくれた?」
 幼い頃から気心が知れている大臣なので、彼の前だと自然に砕けた口調になる。彼もそれを一々咎める事はない。
「後からおいでになるとの事です」
 大臣は頷きながらレナへ報告する。
「じゃあ、待たせるのも悪いわね。先に会ってくるわ」
 そう言って彼女は訪問者に会う為に自室を後にした。



 訪問者―バッツは来賓用の部屋へ通されていた。
 華奢な作りの椅子に腰を降ろす。
 こうゆう場所に馴染みがないほど旅慣れていない訳ではなかったが、やはり気後れするのも本当の所だ。
 こうゆう改まった場所は何度訪れてもやや苦手だった。
 自分の身に付ける旅装束を見直して、ちょっと場違いかなと苦笑する。
 彼の着ている物は普通に街を歩く分には別段差し支えない格好だったが、一国の城の人々と比べて浮いてしまうのが正直な所だった。
 そこまで取り繕う必要はないと自分の中で割り切っているし、そうするつもりも無かったが。

 部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってきた。
「久しぶりねバッツ」
 その女性は彼の近くに歩み寄って笑いながら声をかけた。
「おう、久しぶり、レナ。何度見てもお姫様みたいだぜ」
「だってその通りだもの」
 そう言うと彼らは互いにふき出すように笑いあった。
 彼女は薄紫色の透ける素材の布が何枚も重ねられたドレスを身に付けている。
 本来肩口あたりの長さの髪は今は簡素ながらに纏められていた。後れ毛が頬にかかるのがなんとも愛らしい。
「ごめんなさいね、私今日はもう時間がなくてそろそろ行かなくてはならないの。姉さんは後から来るはずだからゆっくりして行ってね」
「気にすんなって。俺も突然来ちゃったし」
 レナはフフフと嬉しそうに笑うと、それじゃあねと告げてそのまま部屋を出て行った。






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