青く光る小さな瓶の中。
 それが 私のせかい。

 瓶の中には、何日も祈りを捧げて清められた水が入る。
 それが 私の寝床。

 毎朝、私を呼ぶ声がする。
 聞き覚えのある声に、そっと瓶から顔を出す。

「おはよう」
 栗色の瞳を嬉しそうに綻ばせながら、顔を傾けると同じ色の髪がそれに合わさって揺れた。
 この国の、次の主になるべき女の子だ。
 そしてこの国でたった一人、私の姿が見れて私の声を聞き分けれる唯一の。
 私は 彼女がとても好きだった。
 彼女も 私をとても好きだった。

 彼女が、手にしている小瓶を、私の居る青硝子の瓶の隣にそっと置く。瓶底が木机にあたってコトリと硬質な音を立てた。

「…おはよう」
 私が彼女にそう返すと、嬉しそうに私の方にそっと手を伸ばして来る。私は彼女の指に自分の手を置いて力をかけると、這い上がるように寝床の青硝子の瓶から体を出した。
「お水、取替えるからちょっと待っててね」
 うふふ、と悪戯っぽく笑うと彼女は青硝子の瓶の隣に置いた小瓶を左手に取った。私は彼女の指に捕まった手にまた力を込める。空気がすこし揺れて私の体が浮いた。そのまま彼女の肩にとまるようにそっと降りた。
 彼女はつい先ほどまで私が捕まっていた右手に青瓶を持つと、そのままそれを床へ傾けた。
 水がそのまま吸い込まれるように落ちる。そして床にぶつかる手前でキラキラと弾けながら、消えた。
 閉じ込めた祈りが 還るように。
 青く青く 一粒溶ける。

 彼女は左手の小瓶を傾けて、右手に持つ青瓶の中に水を注いだ。
 彼女の肩の上から水が光を反射して瓶に吸い込まれる様子を眺めた。

 祈りを閉じ込めて 青く青く。
 私とともに 一粒溶ける。

 彼女は嬉しそうに体を揺らして水を注ぎつつける。
 栗色の髪が、同じく揺れた。

「ねえ、歌って」
 彼女は私を横目で見ると、ニコリと笑ってそう言った。
「何の歌?」
「昨日、歌ってくれたのがいい」
「一緒に、歌ってくれる?」
「良いよ。頑張ったから、覚えたもん」

 銀の色をまとって、水が光る。
 祈りをためて 青く青く。

 部屋に木霊する、二つの声。


 古い 古い 銀の時代の歌。




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